「洗濯は水量を増やせば良い」という嘘とホント

皆さん、洗濯は「水量を増やせば良い」という話、聞いたことありませんか?

実はこの話、少し説明が足りていない点があります。なので、かなり勘違いを生みやすいんです。

洗濯における洗浄力というのは、「洗剤(界面活性剤)の力×機械力」で決まります。良い洗剤を使えば洗浄力は上がるし、強い機械力を使えば洗浄力は上がります。ソフト洗いコースより、通常洗いコースのほうが汚れが落ちるのはこのためです。

「水量を増やす」というのは、このうち、「機械力を上げる」ことに作用します。例えば、ショボショボと降っている雨で人は流されることはありませんが、大雨になると、洪水で流されることもあるかもしれません。それだけ、水量が増えると機械力は上がります。

であれば、洗剤量を増やさずに水量を増やすだけで良いのでしょうか?ここで、洗剤の「濃度」という変数が出てきます。洗剤(界面活性剤)には、その能力を最大限発揮するための濃度が決まっていて、ある一定までに濃度が足りていないと、その能力が全く発揮できません。

引用:日本石鹸洗剤工業会

洗剤濃度が適正領域になる値、これを専門的にはCMC(臨界ミセル濃度)といいます。この濃度に達するまで、洗剤の洗浄力は飛躍的に伸びます。逆に、この濃度に達すると、それ以上は入れても逆に洗浄力が下がることもあります。

出典:ワイズプラント株式会社

洗剤濃度がうすい状態というのは、洗剤が空気や洗濯槽、あるいは洗濯物との「界面」にへばりついているだけの状態です。これだと、ただの水で洗っても大きな差は出ません。ところが、洗剤濃度が一定まで濃くなると、「ミセル」と呼ばれる集合体を作り出します。これがCMCです。

このミセルが、水に溶けない皮脂などの油汚れを水に溶けるかのように振る舞ってくれる役割を持ちます。実際に、実践女子大の試験によると、洗剤濃度が下がると洗浄力が著しく下がる、という論文が出ています。

実践女子の論文によると、

CMCは界面活性剤の種類によって異なる。
石鹸(脂肪酸K/Na)は濃度が下がると洗浄力が著しく下がる。
LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸Na)などの陰イオン系界面活性剤も濃度の影響を大きく受ける。
AE(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)のような非イオン系界面活性剤は影響はあるが小さい。

実践女子大「市販の洗濯洗剤の洗浄効率に及ぼす界面活性剤含有量の影響」

とあります。

試験データをみると、石鹸は極端に落ち、陰イオン系は20%ほど落ち、非イオン系は10%ほど落ちています。

なので、この試験だけ見ると、洗剤の投入量を増やさずに水だけ増やしても意味がないどころか、却って洗浄力が落ちることになります。

ただ、先述のとおり、水量が増えると機械力が上がります。例えば一番多い非イオン系の場合、洗剤濃度が下がって10%落ちたとしても、水量が増えることで補ってあまりあるか?という視点になります。

そこで、下記のような実験を行いました。

【洗浄方法】

・湿式人工汚染布を使用
湿式人工汚染布は、油脂、蛋白、カーボンというお洗濯で落ちにくい汚れを人工的に、かつ定量つけた洗浄試験用の布。

・洗剤は主成分に非イオン洗剤が含まれる花王のアタックゼロ
アタックゼロを採用したのは、比較的使用量が少ないため

使用量が少ない(濃度が薄い)洗剤は、洗剤濃度の低下で洗浄率が低下しづらいというのが、実践女子大の研究結果でわかっています。つまり、本試験は最も「水量が多い場合」に有利な試験となっています

・ビーカーでスターラー洗浄

・洗い10分、すすぎ1回目10分、すすぎ2回目10分

Aはアタックゼロで、規定濃度 0.03%
水量は250mL(布に対する適量)
すすぎ水も250mL

Bはアタックゼロ半分濃度 0.015%
水量は倍の500mL
すすぎ水も500mL

【結果】
A(規定濃度、水量適量)の洗浄率は23.8%
B(濃度半分、水量倍)の洗浄率は22.8%

以上のことから、A、つまり洗濯機メーカー指定の水量、洗剤メーカー指定の濃度で洗ったほうが、洗浄力が高いことがわかりました。

ではなぜ、水量を増やしたら洗浄力が上がったように感じる人がいるのか?についての考察です。

  1. そもそも同じもの、同じ汚れ状態を比較していない
  2. 洗濯機に洗濯物を詰め込みすぎ
  3. 半分宗教みたいな洗濯インフルエンサーに騙されてる(笑)

という、3点のいずれかだろうと考えられます。実質的に多いのは1か2でしょう。

「汚れ」とひとくくりに言っても、泥汚れと皮脂、しょうゆの汚れだと、それぞれ得意が違います。泥汚れなら機械力が強いほうがいいし、しょうゆなら水だけでも落ちるので、理論上は水量が多いほうがいいと言えないことはありません。ただ、皮脂のようにそもそも水に溶けないものは、洗剤濃度が重要です。また、しょうゆや泥も仮に落ちたとしても、洗剤濃度が適正でなければ再汚染します。局所のシミのような汚れが薄まって、全体について目立たなくなっただけ…という可能性も捨てきれません。

つまり、本試験や科学的見地で考察すると、水量や洗剤濃度は洗濯物の量に合わせて適正に設定するのがベストであるとなります。決して、水量だけ増やしても意味はありません。汚れは水に移るので、水を増やせばどんどん汚れが移動するんです!という人は、もう一度、飽和と界面活性剤のローリングアップを勉強しなおしてもらえると良いと思います。

実際に、水量を増やすと(一緒に洗剤も増やして)洗浄力が上がる、という論文もあります。ただ、水量を増やすと衣類が傷むのでオススメしないと括られています。適量以上に水が入ると、水のねじれ(タービュランス)が強くなり、機械力が上がりすぎるので、衣類にダメージが生まれます。これは縦型のほうが顕著です。

ドラム式の場合は水量が必要以上に増えると水がクッションになるので、機械力が下がり、洗浄力は下がります。

無駄に水量を増やしても、排水が増えるだけでお財布にも環境にも優しくありません。不合理な洗濯方法が目新しいからといって、エビデンスを調べずに真似るのは危険なので注意が必要です。

本稿が参考になったら、ぜひ、SNSなどでシェアをお願いします。

PAGE TOP