はじめに
経皮毒とは、皮膚から吸収される有害物質によって引き起こされる中毒のことです。しかし、近年「経皮毒はエセ科学だ」という主張があります。この主張には一定の根拠がありますが、それでも私たちは経皮毒に注意する必要があります。本記事では、経皮毒がエセ科学であるかについて考えてみます。
経皮毒の実態
経皮毒は、皮膚から有害物質が吸収されることによって中毒を引き起こす可能性があります。しかし、その影響は限定的であり、私たちの健康に深刻な悪影響を与えることはほとんどありません。一部の有害物質は経皮毒性が高く、重篤な中毒を引き起こす可能性がありますが、そのような物質は一般的には市販されておらず、専門家の管理下で取り扱われています。
経皮毒がマーケティングに使われる
実際には人体に危険な薬品はたくさん存在することは確かです。ただ、家庭用品として販売されているシャンプーや洗顔料については、厚生労働省で厳しく管理されていますので、ほとんどの人にとって懸念するような危険性はありません。逆に、「経皮毒」という言葉を使って消費者の不安を必要以上に煽り、マーケティングの手法に使われるケースが近年、増えています。その主なケースとしては、
- 他社の製品は有害で当社の製品は安全です。
- 化学物資の化粧品や食器用洗剤は「経皮毒」で皮膚に吸収される。
- 洗剤を使ってるとガンになる。
- 化学物質をやめるとアトピーが治る。
などがあります。
近年、経済産業省もこうした不安商法に警鐘を鳴らしており、こうしたマーケティング手法に対して、公式に見解を出しています。
経皮毒という学術用語がない
意外かもしれませんが、「経皮毒」という学術用語はありません。化学的には「皮膚刺激性」と表現され、より危険なものは「区分1」そこから数字が増える順に安全性は高くなり、化学的に害があると証明できないものは「区分外」とされます。
一般的な合成洗剤の安全性評価
皮膚腐食性がある(区分2)からといって、触ってすぐに皮膚が溶けることはありません。水で洗い流せばほとんど問題がないことが多いです。上表にある通り、一般的な界面活性剤には発がん性はありません。
逆に、皆さんが手指の衛生を保つために使用している「アルコール(エタノール)」は、発がん性が認められています。発がん性という観点だけでみると、シャンプーに触れるよりアルコールに触れるほうがよほど危険です。
シャンプーの経皮毒はエセ科学
では、シャンプーなど肌に触れる合成洗剤で「経皮毒」というのは嘘といっていいのでしょうか?結論を先にいえば、やはり嘘です。
まず、人の肌には皮脂膜などのバリア機能があるので、界面活性剤が簡単に深層に入っていくことはできません。
経皮毒がエセ科学とされる理由は、科学的根拠が不十分であるとされていることです。実際に、現代の科学的研究により、経皮毒による健康被害を示す証拠はほとんどありません。
経皮毒が信じられる理由
それでも経皮毒が信じられる理由として、
・食器を洗うと手が荒れる
・シャンプーで肌荒れ、かゆみがでた
・洗濯洗剤に怖い注意書きが書いてある
(目に入ったら洗う、口に入ったらうがいする、洗濯機についたらすぐに布で拭うなど)
というような、日常的に体感している「なんとなく洗剤は体に悪そう」なイメージと結びついているのだと思います。
こうした心理を利用して、経皮毒を積極的に訴える人もいます。その特徴として、「高額シャンプーを売りたい」「オーガニックコスメを売りたい」というのがあります。経皮毒をことさら危険に書いているWebサイトはだいたいこのパターンでした。
なぜシャンプーに経皮毒がないと言えるのか?
では、シャンプーに経皮毒はないと言ってよいのか?答えはイエスです。安全性が高いといえる科学的根拠があるからです。
例えば、シャンプーでよく使われるラウレス硫酸Na、ココイルメチルタウリン、コカミドプロピルベダイン、TEA(トリエタノールアミン)などは厚労省で安全性が確認されていて、シャンプーに使って良い成分とされています。
一般の方はあまりご存じないかもしれませんが、シャンプーなど直接肌に触れる製品は医薬品ではないのですが、「薬機法」の規制対象となっていて、危険な成分は配合してはいけないルールなんです。
よく勘違いされるのが「ラウリル硫酸ナトリウム」
ものすごく脱脂作用の強い界面活性剤で、皮脂の分泌が少なく、乾燥肌の人は一発で肌荒れの原因になります。
マウスの実験で「合成洗剤で毛が抜ける〜」というのを見たことがある人もいるかもしれませんが、そのときに使われたのがこれ。
原液を塗ってそのまま放置したら、当然かぶれます。
ただ、ラウリル硫酸ナトリウムは、実はシャンプーではほとんど使われない成分です。また、シャンプーに含まれる界面活性剤は2%程度、多くてもまず5%はいかないので、仮に含まれていたとて、マウスの実験とは相当シチュエーションが異なります。
シャンプーによく使われていて、名前が似ている「ラウレス硫酸ナトリウム」と混同している人もいます。
ラウリルとラウレスは全くの別物。ラウレスは皮膚刺激性が殆どないので、シャンプーにたくさん使われています。
ラウレスでもまだ乾燥する、痒みを感じるという人には、最近ではココイルメチルタウリンNaのような、さらに刺激性の低い基材も出てきていますので、気になる人は探してみてください。
経皮毒といわれる薬品はないのか?
もちろん、肌に触れると危ない薬品もあります。代表的なものはフッ化水素酸。微量でも皮膚に触れると、皮膚を溶かすだけでなく、体内組織に入り込んで壊します。とても怖い成分です。こんなモノを入れていたら、シャンプーは販売許可がおりません。ただ、残念ながらお風呂用洗剤に入ってることがあります。これ、なぜ法規制が及んでないか謎です。すごく危ないです。「水垢がみるみる落ちる!」とか書いてる洗剤は、ちょっと怖いので注意しましょう。
結論
経皮毒は、科学的な立場から見るとエセ科学とされることがありますが、私たちが日常生活で直面する有害物質に対する注意を緩めることはできません。薬品による健康被害を防ぐためには、適切な対策を講じることが必要です。私たちは、化成品について正しい知識を持ち、身を守るための対策を取りましょう。